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2025/10/07 (Tue)
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2008/11/19 (Wed)
 

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お妙がスナックお登勢で言ってただけの話。
「ヘェ そうなの」
そんなもんだ。

ほんの小さな頃、年上の男の子と手を繋いで一緒に家出したんですって。でも二人ともすぐに心細くなって引き返しちゃったんだけど、凄くドキドキしたって、珍しく神楽ちゃん照れてたわ。やっぱりあの子も女の子なのよね。あ、私の初恋はね、恥ずかしいんだけど、寺子屋の若――

酔った勢いで勝手に他人の色恋の暴露してんじゃねー!、とは言えない可笑しな自分に苦笑いだ。まったく、俺はどうかしてる。
初恋なんかみんな幻想とか過ちとかで形成できる、そんなもん、みんなそうだろ。

「ヘェ そうなの」

「ヘェ」

視界の端、向かいのカウンターのシワクチャババァが余計に顔をシワクチャにニタニタ歪ませて言ったのが、益々俺の気分を害した。クソ不っ味い酒出しやがって。

二階の自宅に帰ったのは明け方、酒はクソ不味かったが、十分に酔いもしないで部屋に戻るのは余計にクソ気不味かった。玄関からあいつの寝室(押入れ)の前を物音をたてずにそっと通って来れば、リビングでテレビが白黒の砂嵐を放映していて、ソファには毛布にくるまって寝息をたてる神楽。人の気も知らないで。

「ソファで寝るなっつったろーが」

どうせまた深夜の通販番組にでも夢中になっていたんだろう。俺は夜中に一人で通販番組なんか観るのは嫌いだ。まるで永遠に続くようで虚しくなる。
まぁ一人宇宙船にひっ掴まって大航海を決め込むようなクソ馬鹿ヤローだ、こんな肝の据わった小娘に一人で観る深夜番組の寂しさなど分かるはずもなかったか・・・・

「昔は連れがいても家出なんかできなかったくせに。」

俺は馬鹿か。不味い酒で押し流したはずの話だ。

なぁどう思う?その例の手を繋いで逃避行を決め込もうとした少年が今、テメーみたいに一人で宇宙航海なんかできる男になってるか?
まず有り得ねーよ。お前みたいな女に引け目を感じないはずねぇよ。男は女に対して、それこそバベルの塔ばりのプライドと繊細なガラス細工の心と理想を持ってんだぞ。
お前みたいな強い女、きっと男は苦労する。勝手に居なくなりゃしないかと気が気じゃなくなる。俺で本当にいいのかって不安になる。だからテメーの前では大人でいて、なんでも解るって顔しててやるし俺はどんな場面でも前向いて立つんだよ。
じゃなきゃその男みたいに置いてかれるだけ。
こんなくだらない決意をするのは酔った勢いだから。寝て起きればアホなこと考えたな俺、で終われる。
だからさっさと寝ちまおう。俺が知ってるこいつの家出は一度だけだ。俺のとこに騒騒しく転げ落ちてきた一人ぼっちの女の子、その事しか俺は知らない。
一度目だろうと二度目だろうと、たとえ三度目だろうと。

「ヘェ そうなの」

それしか言えない。


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